昇給したら「随時改定(月額変更届)」を忘れずに|時給アップの後にやる社会保険の手続き
10月の最低賃金引き上げにあわせて、時給や基本給を上げた会社は多いと思います。「よし、賃上げ対応は終わった」と一息ついていませんか。
実はもうひとつ、忘れてはいけない手続きが残っているかもしれません。社会保険の「随時改定」いわゆる月額変更届(月変)です。給与が大きく変わったのに手続きをしないままだと、本来と違う保険料を天引きし続けることになり、あとから数か月分まとめて清算、という面倒な事態になりかねません。
今回は、どんなときに随時改定が必要になるのか、いつから保険料が変わるのかを、10月昇給を例に整理します。
そもそも|社会保険料は「標準報酬月額」で決まっています
健康保険・厚生年金の保険料は、毎月の給与額そのものではなく、標準報酬月額という区分(等級)で決まっています。この標準報酬月額は、原則として年に1回、4~6月の給与の平均をもとに見直され(定時決定・算定基礎届)、9月から翌年8月まで使われます。
ただ、年の途中で給与が大きく変わったのに、1年前の給与水準の保険料のままでは実態に合いません。そこで、大きな変動があったときは年の途中でも見直す。これが随時改定です。
随時改定が必要になる「3つの条件」

次の3つをすべて満たすと、随時改定の対象になります。
1.固定的賃金が変わった
基本給の昇給・降給、時給単価の変更、日給から月給への変更、手当(役職手当・住宅手当・通勤手当など)の新設・廃止・金額変更。こうした「毎月決まって支払われる部分」の変動が引き金です。最低賃金対応の時給アップは、まさにこれに当たります。
2.変動月からの3か月平均で、標準報酬月額に2等級以上の差が出た
変動があった月から続く3か月の給与(残業代なども含めた総支給ベース)の平均を出し、今の標準報酬月額と比べて2等級以上ズレていたら該当します。
3.3か月とも支払基礎日数が17日以上ある
給与計算の基礎になった日数が3か月とも17日以上あることが条件です(社会保険に加入している短時間労働者は11日以上)。長期欠勤などで日数が足りない月があると対象になりません。
3つの条件を満たしたら、月額変更届を年金事務所(日本年金機構)に提出します。
いつから保険料が変わる?|10月昇給なら「1月改定」

随時改定は、変動があった月から数えて4か月目に標準報酬月額が改定されます。
10月に時給を上げた場合で見てみましょう。
- 10月・11月・12月:昇給後の給与3か月分の平均を見る
- 翌年1月(改定月から4か月目):新しい標準報酬月額に改定
- 保険料を翌月の給与から控除している会社なら、2月支払いの給与から天引き額が変わる
つまり、10月に昇給した効果が保険料に表れるのは年明けです。「昇給したのにしばらく保険料が変わらないけど大丈夫?」は、この仕組みのせいなので、慌てなくて大丈夫です。逆に、1月になっても手続きを忘れているほうが問題です。
よくある勘違い|「残業代が増えただけ」は対象外です

ここは間違いやすいところなので、丁寧に整理します。
- 残業代だけが増えた・減った→固定的賃金の変動がないので、随時改定の対象外です
- 時給を上げた(固定的賃金の変動あり)→3か月平均を計算します。このとき、平均には残業代も含めます
つまり「引き金になるのは固定的賃金だけ。でも計算には残業代も入る」という関係です。時給を少しだけ上げた月にたまたま残業が多いと、思ったより等級が上がることもあります。
もうひとつ、さかのぼり昇給(遡及昇給)にも注意してください。「10月分から昇給、差額は11月にまとめて支給」のようなケースは、差額が支払われた月を起点に判定する扱いになり、計算方法にも細かいルールがあります。ここは自己判断せず、確認しながら進めるのが安全です。
放置するとどうなる?|あとからまとめて精算になります
月額変更届を出し忘れると、実態と違う標準報酬月額のまま保険料を徴収し続けることになります。
昇給していたのに古い(低い)保険料のままだった場合、あとから発覚すると、不足分を数か月分さかのぼって徴収することになります。従業員からすれば「ある月だけ天引きがドンと増える」わけで、気持ちのいい話ではありません。年金事務所の調査(定時決定のチェックや数年に一度の総合調査)で発覚するパターンが典型です。
逆に、降給していたのに高い保険料のままなら、従業員に返す精算が必要です。どちらに転んでも、事務負担と従業員への説明コストが増えるだけなので、変動があった時点でチェックする習慣にしておくのがいちばん安上がりです。
2026年は特に要注意|対象者が増えています
今年の10月は、随時改定のチェックがいつも以上に大事な年です。理由は2つあります。
ひとつは、最低賃金の大幅引き上げです。時給者が多い会社ほど、固定的賃金の変動が広い範囲で起きています。

もうひとつは、社会保険の適用拡大です。10月から週20時間以上のパートさんが収入額にかかわらず加入対象になったため、「社会保険に入っているパートさん」自体が増えました。時給アップ×社保加入者の増加で、月額変更の対象者は確実に増えます。短時間労働者は支払基礎日数の条件が11日以上になる点も含めて、名簿ベースでの確認をおすすめします。

10月昇給の会社は、年内にチェックリストを
やることはシンプルです。10月に固定的賃金を変えた従業員をリストアップし、10月~12月の給与が出そろった時点で3か月平均と等級差を計算、2等級以上の差が出ていれば1月に月額変更届を提出。この流れを年内にセットしておけば、1月に慌てません。
当事務所では、随時改定の対象者チェック(昇給者リストと給与データの突き合わせ)、月額変更届の作成・提出代行、給与計算とセットでの継続管理までお手伝いしています。「時給を上げたけど、月変になるのか自分では判断がつかない」という段階のご相談で大丈夫です。
初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。標準報酬月額の等級表・保険料率は、加入している健康保険(協会けんぽ福岡支部など)の最新の料額表でご確認ください。
